最近何かと耳目を集めるZOZOTOWNだが、インターネットで服を購入したことがない僕からすれば、試着もせずにネットで服を購入する文化が一般的に根付いているとはどうしても信じられなかった*1。
だから経営者の前澤友作がバスキアの絵画を123億で落札したり、「球団を持ちたい」といったり、色んな芸術作品を蒐集してたりと散財しているのを見て、(なんでそんな金持ってるの?)と気になったので、調べてみることにした。
[前澤友作が123億で落札したバスキアの"Untitled".高校をドロップアウトしたバスキアはスラム街のスプレーペインティングで身を立てるようになり、やがてはニューヨークで個展を開くまでになった。
27歳でオーバードーズにより死去。
"Untitled"は後期バスキアによって描かれ、最高傑作との呼び声も高い。]
ZOZOTOWNを経営するスタートトゥデイの有価証券報告書を軽く読んでみた。
やはり気になるのは財政状態と経営成績だろう。
で、度肝を抜かれた。
2018年3月期時点で、売上高980億に対して売上原価79億。売上原価がありえないほどに低いのだ。
いくらアパレルとはいえ、ここまで材料費が安いはずはない(UNIQLOで有名なファスリテですら、原価率は50%を超えている)。
つまり裏を返せば、ZOZOTOWNは服を製造しているわけではないということになる(もっとも最近はプライベートブランドの生産にも徐々に力を入れており、昔に比べれば売上原価は上昇している。昔はもっと低かった)。
また、商品を卸して販売しているわけでもない。商品を卸すということは、その商品に関する在庫リスクを背負うことであり、そのリスクは売上原価として現れるはずだから。
では、服を直接生産していない、商品の仕入れを行っていないにも関わらず、1000億円近くの売上を叩き出すZOZOTOWNの収益の源泉は何なのだろうか。有価証券報告書【事業の内容】から、ZOZOTOWNの事業内容を見にくと、以下のような記載がなされていた。
(略)「ZOZOTOWN」に各ブランドがテナント形式で出店を行い、出店後の運営管理を行う事業であり、 当社グループが各ブランドの掲載する商品を当社の物流拠点に受託在庫として預かり、販売を行う事業形態です。 当事業と買取ショップとの大きな違いは、基本的なマーチャンダイジングをテナント側が実施することと、受託販 売形態であるため当社が在庫リスクを負担しないことであります。当事業に係る売上高は、販売された商品の手数料を受託販売手数料として計上しております。
簡単に図で表すとこういうことだ。ZOZOTOWNはあくまで販売所としてのプラットフォームであり、商品の販売が成約した時に初めて、販売元のメーカーから手数料を受け取る形になる。アパレルに特化したAmazonや楽天市場のようなものだろう。
なるほど、ビジネスモデルは分かった。在庫リスクを負わないのであれば、サーバーが存続する限り、ZOZOTOWNには安定して手数料が入る仕組みになる。果たして次に浮かぶ疑問は、アパレル販売に伴う手数料だけで、年間で数百億円も儲かるのか、ということだ。しかもネット通販なのに。
結論から言うと、可能になってしまう。というのもZOZOTOWNは恐らく、販売成約時の手数料をかなり高めに設定しているからだ。
上の表はスタートトゥデイの2019年3月期 第一四半期の業績ハイライトだが、「商品取扱高」という項目を見てほしい。
これがZOZOTOWN事業のキーとも言える指標で、「ZOZOTOWNを通じて販売されたアパレル商品の総額」を示している。
逆に言えば、ここから差し引かれる手数料がそのままZOZOTOWNの売上高ということになる。単純計算すると37.7%。目を疑うような数値だが、概ねここから±5%が、ZOZOTOWNが販売成約時に得られる手数料ということになるのではないかと推測している*2。
まとめよう。
❶自らは在庫リスクを負わず、アパレル販売のプラットフォームとして機能している
❷販売成約時に(恐らく)高率の手数料を課している
この2点がZOZOTOWNのビジネスを成り立たせている核ということになる。有価証券報告書のKPI指標によれば、直近の年間購入者数は7百万人で、一人当たり購入額は5万円強とのことだ。単純計算で3,500億円規模。個人的にはインターネットで服を購入する人たちが7百万人もいたというのが驚きだが…。なるほど、ZOZOTOWNがZOZOSUITに多額の投資をできたり、経営者が莫大な資産を持っているというのも頷ける。
[注釈]
*1 ただしメルカリは除くものとする
*2 連結業績にはeコマースのコンサルティングフィーや、PBの売上高も含まれている。37.7%はあくまで「控えめな」値で、上記の売上高を除くと、販売成約時に設定されている手数料はもっと高くなると考えられる。
ここまで、ZOZOのビジネスモデルについて見てきた。ここから先は、業績報告やビジネス今後ZOZOがどのような分野に注力していくのか、その結果アパレル業界はどうなるのかについて、僕個人の予想をしてみたいと思う。
先ほどZOZOTOWNのビジネスの中核はアパレル販売のプラットフォームであることだと述べた。ここからZOZOがさらにビジネスを拡大する場合、どのような方向性が考えられるだろうか。
僕は2つあると思っていて、そしてZOZOは既にその2つともについて、推進する兆しを見せている。というのも、このどちらにおいても中核的な役割を果たすのがZOZOSUITなのだ。色々とネタにされていたりもするが、このスーツの開発で得たノウハウと現在手がけている方向性は確実に、ZOZOをさらに拡大させることになるだろう。
[当初はガンツみたいなデザインだったが、紆余曲折を経て今の形に落ち着いた。旧型デザインが近未来的だったために、ユーザーからは今の水玉模様に関して相当のブーイングが上がっていたようだ。ちなみに、旧型スーツに関しては40億円の減損損失が計上されている。]
1.PB(プライベートブランド)の生産・販売
これはイオンがトップバリュで行なっているのと似た方向になる。Amazonや楽天市場では取り扱う裾野が広すぎるため手をつけられていないが、アパレル事業のプラットフォームに特化しているZOZOならこの戦略を手がけることが可能になる。
生産するアイテムについてもよく考えられていて、大々的にスーツの仕立を宣伝していた他は、インナーやプレーンなアウターの生産販売に絞っている。わざわざ服のショッピングに足を運ばなくても、ZOZOSUITで測定さえすればインナーアイテムをすぐに購入できるのは確かに便利だ。インターネットを通じて服を販売しなければならないことがデメリットから、大きな武器へと切り替わることになる。
2.トータルコーディネートの提案
ZOZOは他のアパレルメーカーにはない、非常に大きなノウハウを持っている。それは顧客の購買データから発掘される、膨大な量の「この服を買った人は、こんな服も買っています」というデータだ。
ZOZOSUITを着るだけで、帽子からアウター、靴やカバンにいたるまでを同時に提案してくれると同時に、それを試着した自分の様子を3Dモジュールで確認することができれば…ファッションのカスタマー・ジャーニーは間違いなく、一つ上の次元に向かうことになるだろう。これはマーケティングでいうところのデータドリヴン・データマーケティングを活かしたCRMであり、究極のワントゥワンマーケティングになりうる。そしてそれは家から一歩も出ることなく、ラップトップを立ち上げるだけで完結できてしまうのだ。
以上、ZOZOのビジネスモデルと、今後の動きについてあっさりと概観してみた。
プラットフォームという根の部分を抑えているのはかなり強力だし、ZOZOSUITという第二の武器によって、インターネット販売の欠陥そのものすら克服しつつある。
今後ZOZOは日本人が服を買う上で欠かせない存在になるだろうし、やがてはアパレル業界そのものに覇を唱えることになりそうだ。
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